ひとの眼差しは
だれかの虚無を払う

塵芥に満ちた愚鈍な理性なら
いっそ虚無に返して浄化せよ

そんな教えもあったけど
あるべき必要なものが
己の幸いと、誰かの幸せを
増やすものが欠けているのは
むしろイヒすべき虚無だ

精細な利発さにふれて、
精細に配置された
知性の不思議を掴む

広々としながら、
越えない境のあることを知る

眼差しのなかにひとがいる
そのひとを包む人たちとともに
目の端々ににじみ出て
声の色味と、呼吸やことばの
なめらかな流れと一瞬の間に
目に見えずとも形のように
はっきりと現れる

こんどはあなたが、僕の目に宿る
その日その時間のあいだに宿る
なんでもない会話を繰り返しながら
変わっていく私がいる

誰かを鋭敏にしないような
力を増やさないような
明るくさせないような
そんな虚無は、また少し減って

こんどはその目が
誰かの虚無を払っていく

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