箱庭から

絵本作家のいうように
多義的であるほど 真実がある
重なる木々も、人々の顔も
この目に見える
世界を包む気配には
いつかに置き忘れたものが宿る

わたしはそれを確かめるようにして
そこに心を遊ばせて
たとえば剥がれかけたペンキを
もう一度塗り直すように
私の中に、私を塗り直す

けれどもそれは音もせず
そしてことばもなく
一義的な意味合いで
語られる事もない

季節の花がその姿全部で
丁寧に説明している理想も
石地蔵の優しい笑みの意味も
目もくれず 見出せず
足早に歩き去る世相

願わくば
誰かの目にとまるよう
写真的な視覚のなかに
収めきれない淡いにだけは
いつの時代もひとの探した理想がやどる

いっぱいに陽光をあびて
走り回った子供のように
ひとの心を健康に運動させるもの

新鮮な善のタネは
花が風にゆられるひと時に
織りなす木々の緑の上に
人々の話し声のあとに
適切な眠りのうちに
ときどき偶然道端で出会う
石地蔵の微笑みとの対面に

そういうものへの眼差しに
時を経て経てひとにやどるのは
ある優しい祈り

子供の頃に親しくて
いつしか忘れてしまう
その理想を
現代の言葉にして、守れ。

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