夏の日

物柔らかな
湿気を含んだ空気のなかに
優しさや、正しさよりもずっと
隙間の詰まっているもの

西洋でいう英知
東洋でいう情が
やっとその全体を見うるものが
力をもち、ぎっしりと
静かな心で揺蕩っている

毎度見るたびに
新しい感銘を与えるもの
もう一つの目蓋をひらくもの
思想を伝え、静けさの中に
注意力を育てるものが

この季節とひとの間に
草木の息吹とともに
この場所に満ちている

言語は言葉の形になれば
ごつごつして、描ききれず
欠けているけれど

季節の暖かさと、
草木の気配の混ざり合った
今日の風に、この体を浸すとき
ある全ての向きに通じた
言葉よりも隙のないもの
情に聡くせるもの
必要なとき、
理知に変わる力が

医学でわからぬ
ひとの第二の血脈をめぐる
体に、心に、人になる

遠く忘れられたある思想
原始を生きるものや、
貧しさのために
文明と距離をおくものが
むしろ、よく知っているもの

今日の風の味を知って
その味の運んでくる思いにの中に
浸りきっているといい
せめて、ひととき、
かけらが残るまで

言葉よりも、理性よりも
その魂を満たすものが
その均衡と濃さを
呼び込むものが
夏の日なかの中にある

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