素材の味が生きているか
簡単に買えるものは、大肩素材の味は死んでいる
素材の佳香はほのかに残るか
混ぜ物のない、科学がついに全貌を知ることのない
深く調和の取れた栄養がある
味は適度に淡いか
淡い場所にだけ住う魚がいるように
淡い味のなかに、見つけられる味がある
出汁の味が、淡くてもどこまでも奥深いように
ただの取れたての胡瓜が、本当に美味いように
塩見も甘みも、
平穏な心にそうものと、
苦しい生活の傷痕に沿うものがある
一方は淡く、一方は激しい
商売の要請が後者を殖やし
前者は高級品として、街の奥底で眠る
無味とでもいうべき、エキスや成分の美味しさもある
これもまた、人工に混ぜものをしていては、得られない
けれども、混ぜ物のない高級なものが
昔は各家の食卓にならんでいた
季節の素材の味が生かされて
風味や淡味や、腹に入れて初めてわかるような無味までも
十分兼ね備えたものが、手作りをされていた
けれど時間もかかる
食事をただの栄養とだけ捉えている傾向は
この時間を極力排して、間に合わせようとさせてきた
作り手の気配と時間もまた、味になる。
食べながら感じているストーリーになる。
買ってきた味では、ストーリーも素材の風味もつまらない。
そうして味が、ただ舌で感じうる程度のものに成り下がる。
否、それすらテレビの音で、大して分かってはいまい。
食はあるいっときを食べること
素材の佳香も、器の玄味も、
作られたストーリーも、同席する人の精神も
なんでも混然として、1つの味になる
食べる方も作る方も
食べることが、味と一緒に
その人の思念と情を一つ厚くすることを
忘れているみたいだ
いい加減に、化学調味料で作って
いい加減に、素材も空間も味わわずに食べている
人がどんどん薄くなる
理由はいくつかあるだろう
会う場が減って、時間が減って
味も知らなくなって、自然も見なくなった
どれかではなくて、積算だ
知ることが、守ることだ
正しく心の厚みを守るものを知って
手の届く範囲で、
己と好きな誰かの厚みを、
せめて人間らしいものにしていろ
その幸福に、嘘を入り込ませないように
薄っぺらに形を整えて、
どれだけ幸せを、上から言葉で貼り付けても
心の底では、各自の賢い部分が、つまらないねと突っぱねる
穴のあいた幸福は、どこかに嘘を抱かせる
だから本当の厚みを、大切にしていろ
君の幸せのために