風の詩

般神論のように
1つのものが
完全な神性を持っていると
昔からのことづてを頼りに
木や石を穴の開くほど見つめても
あるいは偉い人に聞いてみても
明確な輪郭は見えてこない

例えば風に葉が揺られるように
雲が来て、ふいに陰りができるように
常にその気配を淡く変化させながら
見え隠れさせている

物そのものに神がいると言ってしまえば
完全という概念にとらわれて、
すぐに歪な観念に堕ちる
観念をいくら求めても
目の前のものは、かえって
酌むべき意味合いを
ありのままの味わいを
益々なくしてしまう

その人の見る力によって
あるいは善行によって
あるいは刻の気配によって
揺らぎ、そよぎ、現れ、影に隠れ
刻々と姿を変えつつ
けれども泉のように
汲もうとすればつきぬ場所

ものに宿る真には
無理のない暖かさがある
ちょうど葉に触れて、その暖かさを感じるような
そのぐらい自然な感触とともにある

そのものの質感のまま
その優しさを知るといい

たとえば夕焼けが、どこの国でも
幾多の詩人の心に響いたように
目をやれば心の色彩を
見る人よりも宿している

道端の石の雑草の1本ですら
絵にならぬものはない

それは私たちの感情にならぬものはないと言う事
それは私たちを深めずにいる事はないと言う事
見るひとの中に宿っている美しさを
返照して眺めている

神とか真実とか
殊更に言い直さなくても
己と世界の邂逅が奏でるものは
どの時代の、どの国においても
美しく尊い

風の運んだ香り
草木のざわめき
陽射しの色が、     
今日の季節を投げかける

高値の絵画も、ここでは意味をなくし
ただ道端の小石と同価に、並べられる
  
温かいものは
心の奥に降り積り
後年、人の善となる。

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