何が良い味か
ということが
何が僕らにとっていいのか
ということの多くを示している
大雑把で不器用な言葉よりも
ただの色や模様の少しの違いと変化に
日々の味や香りの変化に
流れる様な思念に
気持ちもまた、連なっていて
明滅し、躍動し、変化する
それら繊細なものの領域を守る
あるいは在ることを許すための
ある整ったひととき
味に五味あり
甘み、苦味、酸味、辛味、塩味・・
けれどもそこには頭に知られないもう一つ
舌で知るより曖昧で、いわば無味ともいうべき
体の知る味には
一層多彩なふくらみと
僕らの心に繋がって
日々の無数の運命の岐路において
好悪どちらを選ぶのか、
それを定める本質がある
気持ちもまた同じく
空白の中にその秘密を持つ
よく知られる、喜怒哀楽あり。
けれどもそれを支える情の、いわば厚さもある。
腹で美味しい味のように、
印象に連なった、微細で多様な膨らみは、
穏やかに情を厚くして、
軽薄さを断じて、真実を加える
多様な経験に伴って
豊かな想いが
遊び始めるように動き出す
うちなる空間と時間の
ある領域を
意味のある行為や
言葉に応えるための場所を
生活のなかの空白や隙間が招く
時のしじまに
理性の間に
静寂を宿した体に
気つけば秩序だって
あるべきところに収まっている
無数の小さな玉が
明るい水面へ向かって、一斉に浮上するように
認識の光の届く世界へと、
代わる代わるに浮かんでは沈む、
印象のカラフルな玉こそが、
思考の始まりであり、
また、それが連鎖する仕組みでもある
思念の素の玉をたくさん持つといい
それは未だ言葉でも、喜怒哀楽でもない
いわば無味の運ぶ、
穏やかな心象の厚みのような
小さな、分からないくらい
微かで、かつ多彩なもの
意味のある言葉、
空白を消し去った時間
そういうもので埋め尽くした生活で
繊細な気の宿る場所など残りはしない
そうやって、真に意味のある言葉は
皮肉にも、遠ざかってゆく
知らず知らず
優しさの中にすこしの嘘を混ぜて、
また、誰かを孤独に惑わせる
言葉の温度は、厚みは、
むしろ意味の後ろがわに。
大地の味は、科学で測りうる味よりも深い
風の言葉は、人の言葉よりも優しい
かすかな声を聞け
食べ物に、自然に、人のなかに
そして己のなかに