味と心

味の深みには空間がある
人の深みの宿るための空間がある

それは味であり、
あるいは動作
手で掴むこと、かぶりつくこと
それから色味やデザイン
あるいはその色のストーリー

食卓の全ての印象が
それぞれが味の一部として、
一つの食を描くときの深さ

皿を軽んぜず、
素材を軽んぜず
腹を膨らませないなにもかも一緒に
豊かな厚みをいただくのだ

葉の色の深みに、
心の深みが揺り起こされ、
その上に流れ出して
しばし遊んでいくように

味の深みもまた、
人の深みのよいものを
縦横無尽に遊ばせて、
未だあるようなないような
頼りないそれに、形を与えてゆく

穏やかで、静かで、
時には烈しく、けれど人を穿たず
その目で声で、身振りで
子らを喜ばせるもの

ただ一瞬に喉を過ぎる味でも、
自然が、過ぎた時間と、命の気配を刻んだそれと、
単純な物質を、即席に混ぜたそれとでは
明確に、気持ちに違った作用をする

当たり前の生活に
当たり前の深さのものがあれば
言葉に託された意味より深く、
大切な意味をその身に刻む

古人曰く 喫茶去

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