●ある造園

昨日の昼なにもなかった場所に
あっという間に庭ができあがった
庭師たちはどこかゆったりと話しながら
この庭の尊い時間の速度を宿して生きている

空間が、高価な香のように
凛とした良い趣味を
知性と情の塊、その雛形を現前する
体に生きるよいものを
しばしとりだし遊ばせるための
置き場所になる

やわらかな土の上
石はどっしりと構えて
苔ののった柔らかな土山と
たくさんの関係を結びながら
やさしく奥深い情の調べをなす

無造作にちらばった茶色い小石が
あるなんでもない
それゆえに大切な平静を守り

木々と石の空間と、和やかな風が
空間に放った己の心の味蕾を
しっとりと埋める

良い趣味は、良い心の守護者
見る人に伝達し、発案する。

あるいは、よい出会いのようなもの
ただ芸術として美しいだけのものは、
全きものの姿の、いわば塗り絵を埋めきれない
この庭は塗り絵を全て埋めていく
明るい表面の色も、
土の中から垣間見える暗さも
全部に通じた
ひとりの趣味の良い心のための塗り絵を、
眼前に指し示す

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