雨上がりの夕方

枝は揺られながら、無数の音を出し
時折向こうのほうで水の落ちる音がする
風が木々の隙間を通り抜ける音が
それと聞こえぬ音で空間を満たしている

それはおよそ捉えることのできない音で
けれども閉ざされた場所で聞く、無音でもない
世界が眼前にあるという音がする

香りもまた同じように
淡く遠慮がちに、けれど豊かに世界を描く

木々や石や縁側や
どこかの家の夕食の香りや
今いる世界の全ての気配が心地よい

私の心の種となる
食事となり、存在を強めさせ
友となり温め、目覚めさせ
もしも心に顔があるなら
何処かに微笑を感じさせるような 
いい顔にさせる

どれほどの知恵がここにあるだろう
この庭に向かいながら
ぼくはまた正気になる
正気を忘れていた生活者の
錆び付いていた心に気づく
世界の 印象の 彩りにふれて
同じときに、豊かな心の彩りを知る
また少し人に戻る

歪な大人の世界から
しばし隔たり
童心に見ていたように世界を見る
世界は変わらずに
どこまでも優しい

この雨上がりの石の色
どんな詩よりも言葉よりも
僕らの心の粋を
美しいものを(不思議を)の理想を
子供のような情操の無限の幅を
いつでも受け入れて、増してやまない

ぼくの中
それから世界の中
2つの間には、古い約束がある
共に沢山の時を過ごした人に、自ずと情が芽生えるように
先祖の昔から離れたことのない、世界に対する情が
優しく淡く僕らを守っている
その力の及ぼすものを知るものは
ただ子供と詩人と、隠遁者のみ

 優しく人を見るものは、優しい力に包まれて整う
 血色が良くなり、体幹に芯が通る
 大切に自然やものを見る人は、雑な気持ちを離れて
 丁寧につながった、全体と緻密を知る。

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