ある抵抗

白すぎる光の下には、
万象の若さに対峙するときのような感動がない
音波に満ちた静けさのような、
魂でとらえるものがない。

緻密な光彩が魅せる、
知性と情の故郷のかたち。
幾重にも色や形を重ねた芸術だけのもつ、
童心が世界にみいだすような理想郷。

そういう本来印象のなかにあるべき
あじわいを、散らす。

むりに交感神経がオンにされて、
味わい深いものを捉えるための、
副交感神経の活動にとってかわろうとする。

そんな場所には、生活上の便利はあっても、
優しさや親しさの本当は息をしなくなる。

生きて動くもの、
いまこの瞬間に時の移ろう風情。
これらはことさらに意識をされなくても、
みな余さずに感じられ
その幾重にも重なった印象の、
多層の隙間から、
私たちの理性の本当が芽吹くのだ。

人工的に白くて明るすぎる場所。
何も考えなくてもいいのなら、
事務作業が一人の人生ならば、
それでもよい。

けれども、われわれの本質は、
世界を味わい、世界の味を母とする
味のある理性を生きること。
そこには自ずから優しさも
満足も、強さもある。
本質がまねく賢さのなかには。

窓の外の健康な光のなかに生きるものへ、
人知れず嫉妬のようなものを抱えて
この十分に明るくて、
衛生的な箱のなかで、
精神を鈍くさせようとする
なにか無機的な悪に、
ただひとり、抗っていた。

静寂の値打ちを知っている
外に出れば、ごくその辺に転がっている
それでもそれを、生活ごと買うことは
とてつもなく難しい世界です

どこまで時代が行けば、
私たちはこの身に
静寂の運ぶ理性を保てるでしょうか
巧妙にも、
白い光や、生きるための義務が、
本当に価値のあるものを遠ざけ
それらの集積が、病巣となって
社会の表面を賑わせている
ちがう
本当の責任は、
だれが、なにをしたかじゃない

本当は、万物に備わった
人を正しく感化するその力が、
結局日常を遠ざかっていること
自然のみせる、細心で賢明な理性に
一番貴重な平衡が満ちた姿に
倣うことを、知らないために
気づかぬうちに忘れたこと

らくらくと、のびのびと、
僕らは善の優しさと強さを生きられる
そういうふうに、作られた。
子どもの自然な優しさをみよ。

自然の理性は一度われわれの中に没して、
必要な時にかたちをなして現れる。
それが本当があることの、ありかただ。
己のうちの神苑を整えるのは、
同じ神苑を宿す、この世界そのものだ。
天然の律の語る幸いに、耳を預けよ。
陽光のなかで、ものそのものは、みな美しい。

最善最美は見出すものだ
りきまなくても見えるもの
たくさんの自然との交感のあいだに。
緻密で細微な
世界に吹き抜ける最勝の理性が、
いつの時代もひとに残した静寂のなかに。

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