目の前の雨と、昔の雨
並べて見れたら
きっと変わらず
同じに見える
知っているよりも沢山の記憶が
雨の上にうっすらと重なる
見ることは命にくっついた記憶に触れる
ものの背後の、記憶か知か
曖昧に区別がつかぬものが
当人すらも知らぬうちに、
水面下に運動を広げて
ひとをすこしずつ聡くする
雨のもたらす言葉
ただの雨滴が
我々の静かなまことの門に
親しい意味をもつ所以
雨の中に
私の記憶
祖先の記憶
全きものの片鱗
むしろ全容
優しいことの真のかたち
ほんとに笑いあうこと
言語の説明しうる理性を
たやすく乗り越える、ある照応
いまは亡き、先賢たちの言葉
またひとしずく
窓をつたって流れおちる
いまだ原始的な科学が迂遠な
それぞれの目でのみ知りうる現実
久しくその尊厳を忘れ去られた
穏やかで、遊び心があって
世界と同じくらい創造的な世界が
忘れて傷つけた命を正気にさせる
雨の中には己自身
己以上を貫き通す
もうひとりの
そしてほんとの
己が見える