ギリシャの神殿の何もない所
生活のためのものではなくて
神聖さを宿すための
そんな空間
心もまた神聖さを宿しうる空間を
用意しなければならない
意味と役に立つことで
埋めつくされた心は すでに貧しい
月の光が、その真実性で内まで照らすとしたら
ことばで考えられている美しい心は
さぞや歪に
厳しく言えば
醜く映るだろう
言葉のあいだの隙間には
事物のほんとの価値を認める
ある貴いものが宿る
その神聖さの置かれた場所は
例えば路傍の石のうえ
何億年間が精密に刻みこんだ梵字
そんなところに見えるもの
体の中心に通う
たくさんの人々の記憶
それらが織り成して生みだされる
ある尊い理性
地球と人類のそれぞれが
その全身に刻みつけた歴史が出会う時
呼び起こされるある種の敬虔さ
ただ季節の緑を見つめている
綺麗な花を見つめている
その日の空を眺めている
空気の味が分かりだす
日差しを肌で感じている
夜の気配を星に訪ねている
そんな時の静けさ
その静けさが開く
大きな記憶への扉
それはこれから形になる記憶
ある思念の形