3月下旬の月

黄色がかった光を放つ
柔らかい気持ちのお月様が
まだ葉のつかない木と、
電信柱の間にでている

まっすぐに太めの線を引いたような雲が
夕闇のまるい月の下に通っていて
暖かさを落ち着いたものにしていた

夕焼けと少し気持ちがにていて
でももっと静かなひかり

どこからから鼻腔に流れてきた
春の花の匂いに
この時間の情緒がよりおいしくなる

僕の中で途絶えていたものが
また、動き出す

小さくて緻密で奥深くて
ときに応じて強いもの

そういうものが頭にみちる
体に愉悦をあたえてくれる
心が豊かな色あいに安らぐ
ちょうどこの色と香りのもたらした
どんな絵にもまさる、じかの風景画

色で語れない色合いがあるとすれば
この時見ている僕の中に

晩冬初春の独特の花の清冽な匂いも
風の暖かさをふくんだ冷たさも
直に感じる全部が
この風景に色をつける

同じ色合いを知るだけの
豊かななにものかが
正常な命が よみがえって宿る

優しい暖かい柔らかい色
地上のいろいろの後ろからそっと見守る
見るたびに違った趣で
それでいて同じ
嬉しい香気のような
黄色にくすむ まるい月

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