春の香りの中に
無数の良い匂いがする
人工が作れない複雑な香り
無数の香りの数だけ
無数の思念が生まれる
それらはいつか
その時あるべき方へ結晶化をして
1つの人格なり、詩になったりする。
だから本を読むなら外で読みたい
僕のほんとうの思いが
単調な壁の景色の中で
単調な匂いの中で
風もない中で
ついに同質化して
なくなってしまわないように
周りの音も温度も、いつも一様ではなく
その淡いに宿るものこそ
大いなるものの人格なのだ
全きものに触れ続けた人は
全きものの理性をえる
センスによって多い少ないはあれど
多かれ少なかれ得る
善を始め我々の美徳は
この木々のさざめきや、光の陰影を
聞くともなしに聞き、見るともなしに見て
その懐にどっぷりと包まれている
そういうときに、その身を現す
ぼくらがその全部を
たしかに受け止められるだけの
受け皿を己に許すとき
すでに、その輪郭を現し
いつしかそれらが記憶の奥に染み渡り
その集積が、英知になる
一切の自然物は
生きた静寂のしもべ
木々のざわめきが静寂を深めるように
つねに正しい躍動に富んだ
静寂をつくる