夜の水面に

川面は滑るように流れてれている
したにに支えるものがあるから

僕の人格は、それを支える何かが疲労して
あるべきを保つために少し苦労をしている

もしも音がするなら、
ギシバシいってうるさかろう
自ずからぼくを乱してやまない
非情な引力がそこここにある

夜の川面は音もなく流れていく
ちょろちょろと向こうの方で行っているけれど
この目の前の川面は、ただ少しの音もなく流れ去る
その滑らかな動きのなかに、いささかの不安も抱かせない

もしこの体が芯から強くて
そうあればこの理性は少しいまより、静寂を多く宿すだろう
もしいまより妄念が少なくて
そうならば、心はいまより石や川のように
中身があって重たかろう

水面の滑るその優美さに
その安定した余裕のある静かな振る舞いに
ぼくのあるべき場所を思い出していた

帰れるかな
あのころの心に
進めるかな
誰かを喜ばせる
暖かく聡くて、
実在をたくさん宿した
人の姿に

菜の花は、首を垂れて、川面に揺れている
川と花と、互いを少しも損なわずに
別々のままで、
けれども美しい1つの絵のように
揺れている

こうやって、互いの実在を色濃くして
それぞれの姿を誇りたいものだ

鴨川の夜がぼくを包む
見えない夜の思いが僕の周りに満ちる

大気から、香りから
たくさんの薫陶が
すこしも不味さもなく
ぼくの胸にうず高く積もる

それをまだ言えない
今日は言葉を知らない

けれども、時を得て言葉になるだろう
知とはそういう、ものだろう

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