橋の下に流れる
ひとつの造形
無機物よりも
あたたかで知恵を持つもの
通り過ぎようとした
ぼくに語りかけた
言葉を持たぬ言葉で
自己の存在を使って
濃密な生命の甘露について
川部の柳はだらりとたれて
幼いころに出会った懐かしい顔をし
川縁の道は静かに
ただ静かに薫香をはなつ
草いきれと河の匂いが鼻をつく
その確かなもののあいだを
轟々と音を立て流れるもの
無機物の枠にはまらない
生きているもののような気配
生きることと無機物であることの
両方の軛を離れたもの
そうしてどこまでも静かに動き続ける
心乱さず
どの瞬間にも悠然と
石に逆巻き
風に削られながらも
ひとつの気持ちを
失くさずに持っている
それはひとの人格の
理想ではなかろうか
ひとつの至高の示唆ではなかろうか
幼子の隣にいるだけで
いつとしれず智を伝える老人のような
詩人の睫毛の上に住むような
齢千百余年の
覚知をそなえた
龍がいる