ほどよく太っあの梢のすきまの
なんにもない空間に

僕らがみな忘れてきた
何だか大事なものがある

小雨が降って
地面が湿りはじめたら
さっきまでにべもなかった地面が
優しげなかおを覗かせた

むこうで隙間なく葉を茂らせている
整えられたあの木よりも
冬枯れの木が
たくさんの言葉を宿している

梢の隙間に重なる緑と
いまに何かがうしろで動きそうな気配

そんな奥行きのある空間に
ぼくらのよい部分が
無邪気に、縦横無尽に遊びはじめる

いつしか時のあわいがうまれ
理性に楔を打たれる前の
はじめの人間が息をする

ひとの心のまあるい理想は
何億年も変わらない
この当たり前の風景のなかに

一本の冬枯れの木の梢に
しまい忘れた
己の姿

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